探偵の今昔物語

ある老獪の探偵が嘆いていた。
現代の探偵は本物の探偵ではないと。

昔の探偵は依頼人から請けた仕事は結果を出すためにはどんな手段でも講じ、命までとは言わないが人生を掛けていたという。
しかもその結果を出すためには多少の違法行為は目をつぶりながら行っていたというのである。
多少の違法行為をしなければそんなに簡単に情報は集められなかったと言うのである。
世間一般の法律と探偵の法律とは違い、一般社会の法律を守っていたら探偵の仕事はできないのだと。
もし警察にでも捕まれば当然、自己責任であるが一切、依頼人のことや調査については口を割らなかったという。
だから高額の調査料金でも依頼人は納得して支払ってくれていたのだという。

昔の探偵は個々の探偵の考える範疇で依頼を選別していた。
そこには探偵なりのモラルと正義感があったというのである。
対企業的な依頼や政治的な思想的な依頼もあったという。
産業スパイや労働組合幹部からの情報収集などなど。
社員として潜入したり、深夜、対象の会社や自宅に忍び込んだりしても情報を入手していた。
また電話盗聴や室内盗聴も当たり前で頻繁に盗聴機材を取り付けたりもしていたという。
まるで007のジェームズボンドみたいであったという。
だから鍵開けの技術(ピッキング)なども一生懸命に勉強したという。
その為には裏社会の人間達とも交流が必要で専門の空き巣や泥棒などとも顔見知りであったという。
また裏社会と言えば暴力団との交流もあり、その暴力団関係者から得られる情報も大いに調査に役に立っていたという。
何しろ暴力団からの情報はけっこう侮れなかったという。
その為にはそれなりのお金もつぎ込んだと言っていた。
更に付け加えると表社会の代表とも言える警察とも癒着があり、ちょっとした個人情報をえたり、交通違反なども揉み消して貰っていたという。
裏にしろ表にしろ、やたらとお金もかかったというが得られた情報は高価で取引され、それなりのメリットもあったという。

浮気調査や素行調査等の尾行、張り込みでも張り込み場所に適したところがあればたとえそこが他人の敷地やマンション、ビルの中であっても塀などを乗り越え忍び込み、カメラを構え、ずっと隠れて張り込んでいたという。

聞き込みなどにおいても当然、買収なども日常的に実施、また身分の違う名刺や身分証明書なども持ち、いろいろな人物に成り代わって聞き込んだりしていたという。
更に住民票や戸籍謄本など個人情報の基本となる公簿情報も簡単に取得してきていたのである。
尾行や聞き込みにおいても偽の警察手帳を所持、時には警察官になりすましたりすることもよくあったという。
警察官(刑事)に成り代われることでどんな人でも簡単に話ができ、さまざまな情報が入手し易かったというのである。

昔はこんな違法な調査がまかり通っていたのであるがこれはこれで良かったのかもしれない。
ただ結果的には探偵という職業が非合法的な印象を根付かせてしまった原因とも言える。

現代、上記のような家宅侵入、盗聴関連、身分詐称などの違法行為をして逮捕でもされれば探偵個人の自己責任だけでは収まらず、その探偵が所属する探偵事務所そのものが管轄公安委員会から営業停止処分命令や廃業処分命令を言い渡され、営業ができなくなってしまうのである。
それだけ「足かせ」が増えてしまったのだという。

平成19年に施行された探偵業法や個人情報保護法など現在の探偵にとって手かせ足かせが多くなってきているのが現実である。
何しろ個人情報を調べるのが探偵本来の仕事でもあるからである。
その個人情報が探偵でもなかなか蒐集できなくなってしまっている現状なので探偵にしてみれば死活問題でもある。
確かに法律を遵守することは現代の企業としての探偵にとって当然の事で逆に尾行、張り込みなどは探偵以外に行えば、ストーカー規制法で逮捕されてしまう世の中でもある。

昔を知る老獪な探偵にしてみればこんな現代の探偵は本物の探偵ではないと言いたがるのもなんとなく理解はできるのだが探偵という職業がまともな職業として社会的認知を高めるにも一般社会で適用されている法律やルールを遵守した中で依頼人が希望する調査結果を導き出していかなければならないのである。

昔と違い、ある意味、面白味に欠けるのかもしれないが探偵の未来を考えるときちんと変革していかなければならないのであろう。
ある意味、現代の探偵の仕事振りが将来の探偵業界を決めつけると言っても過言ではなく、昔に逆行してはならないのである。